2026 年 4 月 1 日、51 年間「暫定」のまま続いてきた軽油引取税の暫定税率 17.1 円/L が廃止されました。ガソリン側の暫定税率 25.1 円は一足早く 2025 年 12 月 31 日に廃止済み。レギュラーと軽油の値差を半世紀にわたり形作ってきた「税金の差」が、この半年で大きく書き換わったことになります。
現在の実測値はこうです。ガソナビ集計(2026 年 6 月 10 日時点)で、全国の一般道スタンドの単純平均はレギュラー 164.1 円、軽油 153.4 円。差は 10.7 円です。「軽油はガソリンより 20 円安い」という長年の相場観は、もう過去のものになりました。
価格差の出どころは、今も税金
レギュラーと軽油は同じ原油から精製される燃料で、製造コストに大きな差はありません。価格差を生んでいるのは主に税金です。
| 税目 | レギュラー | 軽油 |
|---|---|---|
| ガソリン税(揮発油税 + 地方揮発油税) | 28.7 円 | — |
| 軽油引取税 | — | 15.0 円 |
| 石油石炭税 | 2.04 円 | 2.04 円 |
| 固定税の合計 | 30.74 円 | 17.04 円 |
税差は 13.7 円。暫定税率の廃止前は 53.8 円対 32.1 円で 21.7 円の差がありましたから、税の段差そのものが 8 円縮んだ計算です。ちなみにガソリン側だけが先に減税された 2026 年 1〜3 月の 3 ヶ月間は、税額だけ見れば軽油(32.1 円)の方がガソリン(28.7 円)より重いという逆転まで起きていました。さらに細かい制度の違いとして、ガソリン税には消費税が乗る(いわゆる Tax on Tax)のに対し、軽油引取税は消費税の課税対象に含まれません。軽油は税制上いくらか身軽な燃料です。
軽油の税率が低く設定されてきた理由は、トラック輸送・建設機械・農業機械といった産業用途の燃料だからです。軽油の値上がりは物流費を通じて物価全体に波及するため、政策的に抑えられてきました。
なお、実測差 10.7 円は税差 13.7 円より 3 円ほど小さく、税抜きの本体ベースでは軽油の方が数円高い計算になります。軽油(ガスオイル)は国際市場でも需要の強い製品で、近年は製品価格がガソリンより割高に振れやすい傾向があります。また「4 月の減税で軽油が 17.1 円下がらなかったのはなぜか」という疑問については、補助金が同時に縮小されて打ち消し合った経緯を暫定税率廃止の検証記事で確認できます。実測値の集計方法は編集方針に公開しています。
同じ原油から取り出される、性格が正反対の燃料
原油を加熱して沸点の違いで成分を分けると、30〜220℃ の温度帯からガソリンが、240〜350℃ の温度帯から軽油が取り出されます。炭素の鎖が短く軽いガソリンと、長く重い軽油。この出自の違いが、そのまま性格の違いになります。
| 項目 | レギュラーガソリン | 軽油 |
|---|---|---|
| 主成分 | C5〜C12 の炭化水素 | C12〜C25 の炭化水素 |
| 発熱量 | 約 32 MJ/L | 約 36 MJ/L |
| 引火点 | −40℃ 以下 | 50℃ 以上 |
ガソリンは常温でもどんどん揮発し、火花ひとつで燃え上がります。軽油は揮発しにくく火花では着火しづらい代わりに、高温高圧に圧縮した空気の中へ吹き込むと自分から燃え始める性質を持ちます(圧縮着火)。
エンジンはこの性質に合わせて設計されています。ガソリンエンジンは圧縮比 10 前後でスパークプラグの火花を使い、ディーゼルエンジンは圧縮比 18 前後まで空気を圧縮して、プラグなしで自己着火させます。ディーゼル車の燃費が良い理由は 2 つで、ひとつは高い圧縮比がもたらす熱効率、もうひとつは軽油そのものの発熱量がガソリンより約 12% 大きいこと。同じタンク容量でより長く走れるのは、エンジンと燃料の両方が効いた結果です。低回転から太いトルクが出る特性も、荷物を積んで走るトラックに向いています。
「軽油はいつも安い」とは限らない
軽油は灯油と精製温度帯が近い、いわば兄弟分の製品です。強い寒波で灯油需要が跳ねると、製油所は灯油の生産に寄せるため軽油の供給が細り、価格が強含みます。年末・年度末の物流繁忙期や、海外のディーゼル需給がタイトになる局面も同様です。加えて 2026 年は税制改正と補助金の調整が重なり、レギュラーとの値差そのものが動いた年でした。「軽油だからどこでも安い」と思い込まず、店頭の表示価格を確かめる習慣が確実です。
入れ間違いだけは取り返しがつかない
レギュラーと軽油は、名前が似ているだけの別物の燃料です。だから誤給油は重大トラブルになります。ガソリン車に軽油を入れると正常に燃焼できず、出力低下や黒煙の末にエンジンが止まります。ディーゼル車にガソリンを入れた場合はさらに深刻で、圧縮着火が成立しないうえ、軽油の潤滑性を前提に作られた燃料ポンプや噴射装置を傷めます。
気づいたときの対処は 3 つだけ覚えてください。
- エンジンをかけない(かけてしまったら直ちに止める)
- ロードサービスや JAF を呼び、自走せずレッカー移動する
- 整備工場で燃料の抜き取りと燃料系統の洗浄を受ける
修理費用はガソリン車で 5〜15 万円、ディーゼル車では 10〜30 万円程度かかることがあります。給油ノズルの色は全国共通で、レギュラーが赤、ハイオクが黄、軽油が緑。レンタカーや代車など慣れない車に乗るときほど、ひと呼吸おいて色を確認してください。
年 1 万 km 走る人で、燃料費の差は約 4 万円
ディーゼル車の経済性を、現在の実測価格で試算してみます。年間 1 万 km 走るとして、燃費 15km/L のガソリン車は約 667L × 164.1 円で年およそ 10.9 万円。燃費 22km/L のディーゼル車なら約 455L × 153.4 円で年およそ 7.0 万円。差は年に約 4 万円です(ガソナビ集計・2026 年 6 月 10 日時点の単純平均で計算)。
ただし、ディーゼル車は同クラスのガソリン車より車両価格が 30〜50 万円高いのが相場です。年 1 万 km の走行では差額の回収に 10 年前後かかる計算で、「走行距離が長い人ほどディーゼルが効く」という関係は税制が変わった今も変わりません。年 1.5 万 km を超えるなら、検討する価値が出てきます。
そして軽油もガソリンと同じく、スタンドごとの価格差が小さくありません。ガソナビアプリは軽油・レギュラー・ハイオクすべての店頭価格を地図で比較できるので、給油量の多いディーゼル車のオーナーこそ、給油前のひと目チェックが年間数千円の差につながります。
よくある質問
Q. なぜ軽油はレギュラーより安いのですか?
主因は税金です。ガソリンには揮発油税 + 地方揮発油税の本則 28.7 円、軽油には軽油引取税 15.0 円がかかり(暫定税率 17.1 円は 2026 年 4 月 1 日に廃止)、税差は 13.7 円。ガソナビ集計(2026 年 6 月 10 日時点)の実測価格差は 10.7 円です。精製コスト自体はほぼ同じです。
Q. ガソリン車に軽油を入れるとどうなりますか?
正常に燃焼できず、出力低下・黒煙を経て最悪エンジンが停止します。気づいたらエンジンをかけず、レッカーで整備工場へ運び、燃料の抜き取りと燃料系統の洗浄を受けてください。修理費は 5〜15 万円程度かかることがあります。
Q. ディーゼル車(軽油)の燃費がいいのはなぜ?
ディーゼルエンジンは圧縮比が約 18 とガソリンエンジン(約 10)より高く熱効率に優れること、軽油の発熱量がガソリンより約 12% 大きいこと、の 2 つが理由です。同じ量の燃料からより多くのエネルギーを取り出せるため、燃費と航続距離で有利になります。